診療報酬改定のたびに、現場はざわつき、病院経営はどこも減算の暗いニュース。
そして認知症ケア加算、身体拘束廃止加算に続き、「排尿自立支援加算」という言葉も、ちらほら聞こえてきます。
少しでも加算できるものは加算したい経営陣はどこにでもいると思います。
わが勤務先でも例にもれず、ある日、上からのお達しが。

排尿自立支援加算が取れるので、排尿ケアチームを立ち上げてください

・・・え? 今から?私たちが中心になって? どうやるの?
現場の私たちはポカーン。
まさにゼロベースからのスタートでした。
もしかして今、あなたも「排尿ケアチームを作るよう言われたけど、何から始めればいいの?」と困惑していませんか?
この記事では、そんな手探りで始まった排尿ケアチーム立ち上げのリアルを、成功も失敗も含めて、正直にお話しします。
同じように悩む方の参考になれば嬉しいです。
排尿自立支援加算とは

下部尿路機能障害から回復し、自立した排尿ができるように、排尿ケアチームによる包括的な支援を行った場合に算定できる診療報酬
簡単に言うと
「不要なバルンカテーテルを早期に抜去し、尿路感染や下部尿路機能障害を防ぐことで医療費の削減につとめたら、お金あげるよー」
という感じでしょう。
排尿ケアチームの立ち上げ

ある日、上層部から唐突に言い渡されたひとこと。
「当院で排尿自立支援加算が取れますので、排尿ケアチームを立ち上げてください」
病棟の看護師たちは毎日バタバタ。
「病棟は忙しいから、外来でお願いね」
とのことで、気づけば私たち外来看護師に白羽の矢が立っていました。
でも、いざ“排尿ケアチーム”といっても、当時は加算の仕組みも、他院の取り組みもほとんど知らず。
マニュアルもなければ、頼れる前例もなし。
とりあえず「何か動かなきゃ」と、ネットで情報を探したり、学会発表を読みあさったり…。
まさに手探りのスタートでした。
講習の受講から

排尿自立支援加算を算定するためには、看護師が「所定の研修」を修了していることが要件の一つとされています。
WOC(皮膚・排泄ケア)認定看護師は研修を修了しているとみなされて、すぐにチームの立ち上げに進めます。
でも私たちはどん平ナース。
その講習さえ、いつ?どこで?
情報を取ることから開始でしたw
排尿自立支援加算を算定できる要件の一つ、「看護師の所定の研修」は3つの種類があるので紹介します。
下部尿路症状の排尿ケア講習会
日本老年泌尿器学会・日本創傷オストミー失禁管理学会・日本排尿機能学会の3学会合同で主催。
いずれかの学会の会員登録をしてから、「下部尿路症状の排尿ケア講習会」の申し込みが必要です。
私が受講した時は、コロナ直後ということもあり、完全ZOOM開催でした。
現在は、ZOOMが基本で、東京・福岡などで演習を受けられるようです。
排尿自立支援加算及び外来排尿自立指導料のための講習の受講料は25,000円(2025年現在)。
日本老年泌尿器科学会 | 日本創傷オストミー失禁管理学会 | 日本排尿機能学会 | |
年会費(個人) | 5,000円 | 10,000円 | 8,000円(医師以外) 10,000円(医師) |
年会費(施設・賛助) | 50,000円 | 50,000円 | 100,000円 |
日本老年泌尿器科学会に入会し、講習に申し込むやり方が一番安価に講習を受けられます。(2025年現在)
排尿機能回復に向けた治療とケア講座
日本慢性期医療学会が主催。
会員にならなくても受講でき、福岡、京都、東京など主要都市で各支部が主催で開催されています。
排尿自立支援加算及び外来排尿自立指導料のための講習料は
日本慢性医療学会会員 | 非会員 | |
医師 | 15,000円 | 25,000円 |
看護師 | 30,000円 | 40,000円 |
排尿自立支援加算及び外来排尿自立指導料のための中級セミナー
日本コンチネンス協会が主催。
会員になることが必須で、コンチネンスセミナー中級を修了していることが条件。
また、中級セミナーを受けるには初期セミナーを修了していることが条件です。
なんと、ここの協会は排尿自立支援の講習を受けるまで3段階も踏まないいけないんです。
会員年会費 | コンチネンス初級セミナー | コンチネンス中級セミナー | 排尿自立支援加算のためのセミナー |
7,000円(個人) 50,000円(施設) 100,000円(企業法人) | 20,000円 | 33,000円 | 15,000円 |
27,000円 (非会員) | 非会員は受講不可 | 非会員は受講不可 |
以上、3つの団体で排尿自立支援加算のための講習が開催されています。
時期や場所は各団体によって、年によって変わりますので案内が開始されるまで時々サイトをチェックしてみてください。
また、受講者が増加しているため、早めに定員に達し締め切ることが予想されますので注意してください。
どこの会員でもない場合は、3学会合同の講習が一番安価に済みます。
メンバー集め

泌尿器科医、看護師、理学療法士と作業療法士。
各病棟から病棟からリンクナースを数名ずつ。
ここは上層部の命令ですから、誰さんと誰さん、と有無を言わさずすぐに決定でした。
マニュアル作り

完全に初めての立ち上げなので、たたき台がありません。
本当にゼロから作り上げました。
- 排尿自立支援加算の診療報酬
- 対象患者をどう選んでいくか
- 連絡方法
- 計画表を作り、その使い方を解説
- 評価の仕方
- 看護計画・リハビリ計画のサンプル
- 評価効果について
盛り込む内容は多岐に渡りました。
全職員向けの研修準備

職員全員に向けて、排尿自立支援加算とはどんなものか、またチームの活動内容を理解してもらうために、全職員に向けての研修も加算の必須条件です。
スライドを作成し、動画形式とし、全職員に視聴してもらいました。
スライドの内容は、排尿自立支援加算の診療報酬、活動内容、チームメンバー紹介、病棟との連携の流れ、計画書の書き方など。
そして一番のメインは「排尿自立ケア」は患者さんの尊厳を守り、自宅に帰るか、施設に行くか、その後の転帰先やQOLに大きく影響してくることので、大切なんです、という事を強調。
困惑だらけの始まり

必要なことや方法を説明したところで、実際に動いてみないと分からないことばかり。
動いてみて初めて見えてくる疑問や問題点が山ほどありました。
煩雑な対象者の抽出
入院患者全員に対して、下部尿路機能障害のスクリーニングを行うことにしました。
……が、これがなかなか浸透しません。
抜ける、抜ける、抜ける。
仕方ないですよね。
入院時はやることが山ほどあります。
正直、まだ加算も取れていない段階で、優先度が下がってしまうのも無理はありません。
このスクリーニングが病棟に定着するまで、数か月かかりました。
情報共有の難しさ
スクリーニングの方法だけでなく、「チームへの連絡の仕方」「主治医への報告の流れ」など、決めたことがなかなか現場に浸透しませんでした。
二重・三重に確認や連絡を取ることも多く、「誰に伝わっていて、誰が知らないのか」が分からなくなることも。
始めの頃は、まさに手探り状態でした。
医師ブロックの壁

「リハビリが進めば、自然にバルンは抜ける」
「そんなチーム活動は必要ない」
そんな声が一部の医師から聞かれることもありました。
病院としては「排尿自立支援加算を取っていく」という方針なのに、実際の現場では医師の考え方や方針によって介入が難しいケースも。
「チームで介入できれば改善できそうなのに…」という患者さんもいらっしゃり、もどかしい思いをすることが少なくありませんでした。
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看護師ブロックの壁

バルンを抜いた後は、尿量測定や残尿測定など、観察・記録の手間が増えます。
さらに、トイレ誘導や定期的な導尿が必要なケースもあり、業務負担が増えるのは当然のこと。
業務負担に対する病院上層部への反発はものすごく強かった印象です。
そして、それ以上に看護師たちは“患者さんの安全”を最優先に考えています。
リハビリを始めたばかりの方をいきなりトイレに誘導するのは危険ですし、導尿で苦痛を訴える患者さんを目の前にするのも、精神的にこたえます。
そのため、現場では「バルン再留置」の判断が早まってしまうこともありました。
患者さんの安全を思うがゆえの行動ですが、チームとしてはどうしてもジレンマを感じる場面でした。
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変化の兆し|少しづつ動き出した現場

最初の数か月は、正直、空回りばかり。
「またチームが来た」と、現場の空気はどこか冷ややかでした。
でも、少しずつ、変化の芽が見えはじめたんです。
まずは1人を変えることから

最初から全員を巻き込もうとするのは無理。
そこでまずは、影響力のある病棟師長や、話を聞いてくれそうなスタッフ、排尿ケアに関心のある看護師に声をかけることから始めました。
患者さんの状態を一緒に確認しながら、
「この方、バルン抜けそうですよね?」
「いつ頃なら抜けますか?」
「この時間なら導尿できそう?」
「セラピスト介入のタイミングでトイレ誘導できそう?」
そんな会話を積み重ねていきました。
こうした小さな関わりの積み重ねが、やがて現場の空気を変えていきました。
「排尿ケアチームって、ただの加算取りじゃないんだ」と、少しずつ理解されるようになっていきました。
見える化でチーム力アップ

フォルダ管理していたカンファレンス記録を電子カルテ内に記録を残すことに。
また、チームからの指示が一目瞭然で分かるように電子カルテ内に排尿ケアのアイコンを作成。
チームで外部の研修に参加し、新しいアイディアを見つけることができて、やる気がアップし、結束力が高まりました。
そしてその内容を、チーム内だけでなく、リンクナースや病棟師長らにも伝達講習し、良い反応を得られたこと。

成功体験が、最大の突破口

転機になったのは、ある患者さんのケースでした。
一度はバルンを抜去したものの、導尿が続き、膀胱機能の回復は難しいのでは…とバルン再留置になった方。
でも、リハビリが進み、ADLも向上してきたタイミングで抜去の再チャレンジ。
病棟看護師とリハビリスタッフが連携してトイレ動作練習を重ねた結果、数週間後、見事に膀胱機能が回復しただけでなく、トイレ排尿も自立も獲得できました。
本人の笑顔とスタッフの達成感。
「これが排尿ケアの力なんだ」と、みんなが実感しました。
このケースをきっかけに、“排尿ケアチーム”の存在が病院全体に認知されはじめました。

チームの存在が定着
今では、毎週行われているカンファレンス・ラウンドにイヤな顔をする人もいなくなりました。
(内心では思ってる看護師もいると思いますがww)
活動は完全にルーチン化し、排尿ケアが院内の文化として根づきました。
バルンカテーテルの抜去率40%から76%と確実に上昇し、バルン留置患者ゼロの日が続くことも。
尿路感染も明らかに減り、薬剤師からは「抗生物質の使用量が大幅に減少した」と報告がありました。
さらに、病棟担当医からも嬉しい言葉が。

熱を出すと検査しなきゃだし、リハが止まって、せっかくの機能回復が遅れていた。でも、チーム活動が始まってからは確実に発熱が減った。すごいね。
現場の実感と数字の両面から、チームの意義を感じられるようになりました。
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まとめ
排尿自立支援課のための排尿ケアチームの立ち上げ経験談はいかがでしたか。
チーム立ち上げ、最初は本当に手探りでした。
でも、“誰かひとりの変化”や“小さな成功体験”が、確実に現場を動かすきっかけになります。
- 変化はひとりから”を大切に:最初から全体を動かそうとせず、影響力のあるスタッフを巻き込む
- 見える化と情報共有の徹底:電子カルテ・指示書などにチームの意図を反映し、誰もがわかる形に
- 視聴型必須研修の作成:数分の排尿ケアに関する資料を作成し視聴を依頼
- 成功事例を突破口にする:実例を見せて「できる」ことを実感してもらう
- チーム理念を共通化する:加算ではなく「患者の尊厳」を軸に据える
- 継続と定着化を視野に:ルーチン化と評価指標を設定して文化として根付かせる
排尿ケアチームは、制度上の“加算”を超えて、患者さんの尊厳を支える活動です。
その思いをチーム全体で共有できたことが、最も大きな成果でした。
もしこの記事を読んで、あなたの現場で「始めてみよう」と思われたら、ぜひ一歩を踏み出してみてください。
立ち上げや運営に不安や疑問のある方はお問い合わせフォームからご連絡ください。
一緒に解決方法を考えていきましょう!
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参考文献はコチラ↓↓




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